太陽の死

百合の香りが馥郁と漂っている。
青ざめたように白く、清廉にして甘美な無数の百合が、死者を囲んでいる。

死者は柩に横たえられ、手を組んでいる。
表情は安らかに見えるが、死に様は壮烈なものであったことは、頭部を覆った、本来の役割である治癒のためではなく、
死に際の悲惨さを隠すための包帯や、ところどころに見える流血の跡を見れば明白だった。

その生臭さを、百合は巧妙に隠していた。

今まさに、この世とあの世との決定的な断絶を示すような、重々しい柩の蓋が死者を覆い隠そうとしている。
いや、と女が呟く。
それにつられ、口々に死者の名が呼ばれる。

柩が地中深く横たえられた。
弔い人が次々と百合を投げて、地中に百合が花開く。

クラウドは、繊細な指先で、百合の茎を持つと、泣き声を聞きながら柩に向かって放り投げた。

そして、なおも悲しみをまきちらして、それぞれがそれぞれの同情を得て、共感しようとしている人々の群れからそっと離れた。

クラウドにとって、悲しみは共有するものでなく、胸中深く封印し、時々掘り起こしてはそっと撫でるようなものなのだ。

空気そのものが氷結しているかのようだった。

クラウドは白い息を吐き、歩きながら黒いネクタイを緩めた。
氷の世界に閉ざされたように空気が冷たい。
すっかり温かみとその要素は奪われて、その粒子の一粒一粒にまで寒さが浸透している。

地面は色とりどりの落ち葉で覆われていて、前日の雨のせいでつやつやと輝き、深い赤や黄が新鮮なものに見えた。

天には重く雲が立ち込め、グレーの襞がドレープを作っている。
青い天は一片も見えない。

まさに今日は、太陽が死んだ日なのだ。

連なる墓標は暗い空気の中でひっそりとたたずみ、ただ朽ち果てるのを待っていた。

煙草を吸おうと口にくわえ、ベンチに座ろうとすると、そこには先客がいた。
彼もワイシャツのボタンをあけ、ネクタイを緩めて煙草を吸っていた。

クラウドが挨拶として片手を挙げると、スコールはくわえ煙草のまま頭を軽く下げ、それに応えた。

クラウドはスコールについて特に興味もなく、二人の間に会話があったことはないが、スコールのあれこれと話かけてこないところに
一種の気安さを感じていた。

沈黙を怖れ、クラウドにとってははなはだ迷惑な気遣いから、やたらに会話を求めてくる人種は、出来れば近づきたくはなかった。
あることないこと、噂、誇張、悪意、個人的なこと、それら全てが凝縮された会話は、クラウドの意識の範疇外にあった。

スコールからやや間を開けて座り、クラウドはライターで火をつけようとした。

かちっ
かちかちかちっ
かちっ

ああ、面倒くさい。
煙草を吸いたいが、火がつかない。
スコールに頼まなければ、火はつかない。

「火、貸してもらえるか。」
「・・・あぁ。」

スコールも面倒くさそうに答えると、ジッポを取り出した。
それは、重厚な燻されたような銀色で、側面にライオンの掘りがるのがちらりと見えた。

シュッ
シュボッ
シュボッ

「つかないな。」

スコールは煙草をくわえたまま、少し屈んだ。
スコールの意図を汲み取り、クラウドも煙草をくわえて、煙草の先端を互いに近づける。

顔が近づいて、ひとの温もりが感じられた。
スコールは、煙が目にしみるようで眉をしかめ、目を細めている。

煙ごしに、スコールの額の傷が見える。
傷は乾いてはいるが、重い斬撃にあってつけられたもののようで、鋭利、だいぶ深いようだった。

その傷が、スコールの強さの証のように、クラウドには見えた。

「ついた。」
「・・・すまない。」

胸いっぱい煙を吸い込んだ。

葬列は依然悲しみに沈み、人々が肩を寄せ合っているのが見える。
暗い空気と薄日の中で、百合が白く、そこだけくり貫かれたように見えた。

「・・・ああいうのは得意じゃない。」
スコールが憮然とした様子で言った。

彼も、そっと悲しみを胸にしまっているのだろう。
表面に出し、泣き出して人にすがってしまったら、それは死者への冒涜だ、と言わんばかりに。

「俺もだ。」
クラウドがそれに同意する。

「おいっこっち来いよ!!」

遠くから、ジタンのふたりを呼ぶ声がする。
精一杯明るくし、悲しみによりそい、自分は悲しみに沈むことを許していない。

「行くか。」
スコールは黒いコートの裾を翻して立ち上がり、クラウドもそれに続く。

落ち葉を踏む。

スコールが百合を投げ入れると、柩は深く葬られ、死者は永遠に旅立っていった。
太陽の死