春の断片





日光が随分と猛々しくなってきた。
まだ春のつもりでいる意識下にある私の身体は、突然訪れた暑さに耐えられない。
内に熱がこもっただるさを感じ、ベッドに横になった。
シーツの冷たさがほてった肌に心地よい。

クラウドの掌を思い出す。

大きくて、私の額を包み込んでくれた。
すぐ体調を崩す私を常に気遣い、世間の母親がするように、掌で私の具合を推し量ろうとしてくれた。
それは子供のままごとのようでもあったが、母親の記憶が殆どない私は、とても幸せだった。


大きくて、柔らかくて、少し冷たいクラウドの掌は、私をしっかりと受け止めてくれた。


開け放した窓に吹き込む風の匂いに誘われて外を見ると、新緑がちょこちょこ芽吹いていた。
もうすっかり成長し、濃厚な緑を誇る葉っぱのなかで、それは清楚な春の名残りのように見えた。

私の人間離れしていると忌み嫌われた緑色の髪をさし、春っぽくていい、と言ってくれたのはクラウドだった。
深い紫の瞳もそうだった。

私の構成要素を、クラウドは好きだと言った。
私自身ですら、気持ち悪くて鏡に映る自分に吐き気がするほど嫌いだったのに。

いちいち傷つく心に疲れて、肉体の死を決意した私をクラウドは救い出し、こころをそっと撫でてくれた。

私はクラウドに生かされている。


今、彼は何をしているのだろう。
私の額に確かな痕跡を残し、彼は私の前から姿を消した。
あの大きな刀を背負って悲しい過去を胸に秘めて、今はどこにいるのか。

私のことは覚えてくれているかな。


私の声が届きますように、なんて贅沢は言わない。

不安を抱えずに、穏やかに暮らしていて下さい。
病まずに健やかに、何はなくても明るい生活を送っていて下さい。

そして、私自身が、心のなかに残るクラウドの思い出を、決して忘れませんように。
彼と過ごした時間の全てを、いつでも反芻できますように。

私は思った。


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