ひ め や か な 会 話









欅並木の高さに揃えられた建物が並ぶ通りを、ティーダはぶらぶら歩く。
低層階の、ちょっと古びた建物には国内外の高級ショップが軒を連ね、洗練された雰囲気だ。
大きな欅が日光を遮り、通りは昼間でも少し暗い。
涼しい風が人ごみを撫でていくので爽やかだ。


ちょっと裏路地に入ると、安価でおしゃれなお店が、まさしくおしゃれだと思わせるような間隔と雰囲気を保って並んでいる。
この街がティーダはとても好きだ。
整備と洗練こそが都市の象徴だからだ。


買い物はあらかた終わった。
物欲をくすぐるような洋服はあまりなくて、まぁ俺のレベルに世間がついていけてないんだな、とティーダはひとりで言ってみる。
ただひとつ買ったTシャツが入った大人気ショップの紙袋を自慢げに持ち直す。


何とかかんとかラテ・・・キャラメルやミルクがたっぷり入った甘いコーヒーをストローで吸いながら、
路面店のウィンドウを飾るスマートな着こなしに見とれるふりをする。
無数にすり寄ってくるスカウトであるとか、サロンモデルの誘いを体よく無視するためだ。


クラウドならこんなものゲロ甘くて飲めない、こんなのコーヒーじゃないとか毒づくんだろうな、と思う。
スコールももちろん、鼻先にちょっと近づけただけで不愉快そうな顔をするだろう。


何となく友人を思い出したところで顔を上げると、特徴的な金髪が目に飛び込んできた。
薄暗い通りのなかで、それははっきりと鮮やかだ。


「クラウド!」


ティーダは叫んだ。
その絶叫にも等しい大声に、人が割れて自然とクラウドに近づいた。


「スコールもいるじゃないっすか。ふたりでどうしたの?」


ふたりは喫煙所のベンチに腰かけて、煙草を取り出すところだった。
もちろん、傍らにはティーダのゲロ甘コーヒーとは違うお店のブラックコーヒーが湯気を立てている。


今日のクラウドはサイジングが絶妙なカーゴパンツに、紺色のカーディガンを羽織っている。
スコールはしゃれた眼鏡をかけて、レザーのジャケットを着ていた。


ティーダは何となくふたつま先から頭のてっぺんまで眺めて、感じ良く微笑んで見せた。
今日もふたりはおしゃれだ。


ティーダはいつものようにふたりの間に座る。
ふたりも自然と、ティーダのために空間を作る。
ちょうど背がふたりの真ん中だから、この位置がとても心地よい。


「相変わらず小さいっすね、クラウドは。煙草吸いすぎると伸びるものも伸びないからねー」
「小さいのは仕様だ。」


紫煙を吐きながら、クラウドはお決まりの睨みをきかせる。たかだか2cmだろ、と言わんばかりだ。
スコールはコーヒーの湯気で眼鏡が曇るのが不快なのか眉をしかめ、それでもふぅふぅとコーヒーをさますことに躍起だ。


ふと会話が途切れると、沈黙が訪れた。
ティーダが喋らなければ、3人でいても会話が続くことはあまりない。
クラウドとスコールの身長差を埋めるのも自分だが、沈黙をかき消すのも自分の役目だ、とティーダは思っていた。
沈黙は、面白くない。


自分が声をかけるまでどんな話をしていたんだろう。


「やっぱふたりともしゃべらないっすね!どんな話してたんすか?」
「別に」


いつものようにさらりとした、何の疑問ももたないスコールの言葉をしおに、そろそろ行くか、とクラウドは腰をあげた。
スコールも立ち上がる。
つられてティーダも歩き出すが、買い上げたTシャツを忘れたことに気付いた。


「ちょっと待って!」


取りに戻り、お待たせ、と声をかけようとしたが、ティーダは思わず口ごもった。

ふたりは自然と寄り添って、何か小声で喋っていた。


・・・ああそうか、いや、別に・・・


流れてくる声の断片は、静かだ。
ティーダからすると会話になっていなかったが、ふたりは会話を楽しんでいた。
時々わずかに顔をほころばせ、時々口ごもり、ゆっくりと言葉を選んで低い声で喋っている。
いつもふたりが発している、とげとげしく鋭い雰囲気はなく、まるくて柔らかい感じが、ふたりを包んでいる。


スコールが眼鏡を外し、目のあたりをこする。
当たり前のようにクラウドがバッグを持ち、スコールに何事か喋りかける。
スコールは首を振ると無言で、しかし優しくクラウドからバッグを受け取る。


「ティーダ、いたのか。行くぞ」


眼鏡をかけ直したスコールは、いつもの調子で声をかけた。


「うん」


しかし、いつものようにふたりの間に入ることは憚れた。
173cmと177cmの隔たりは、自分を必要としていないのだ、とティーダは思った。
自分はもうスコールとクラウドの4cmの高低差を埋められないのだと知って、ティーダは少し笑った。






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