戦場のメリー・クリスマス




クラウドが絶命した瞬間が、スコールには分かった。
最後の心音は、ぴたりと身を寄せてふたりきりの行軍を続けていたスコールの耳にはっきり届いた。
その鈍い音を最後に、クラウド・ストライフという人間の時間は途絶えたのだった。


「あぁ」


スコールは何の実感もなく、遺体をおろした。
クラウドの身体は重力に素直に従い、すとんとむき出しの地面に落ちた。


スコールはグローブを外すと、クラウドの頬に手をあてた。
柔らかく、温かかった。


こんな時だというのに、無性に煙草が吸いたくてたまらなかった。
スコールは自分に苦笑しつつ、懐からくしゃくしゃになったパッケージを取り出した。


今回のこの作戦が、間違っていたとは思わなかった。
机上で行なったシュミレーションは完璧だった。
その狂いのない美しさにため息が出たほどだった。


ただ、計算外に冬が早く来過ぎてしまっただけなのだ。


「雪だ・・・」


淡い白い破片は、スコールの掌に落ちるとすぐに溶けてしまった。
その様を、スコールは見つめ続けた。


落ちる、触れる、溶ける。
落ちる、触れる、溶ける。
落ちる、触れる、溶ける。


肌をさらした手指はだんだんとかじかんで赤くなっていたが、スコールはそれには気付かなかった。


クラウドの遺体には雪が溶けることなく積もっていた。
美しい死顔は半ば雪に埋もれていた。
雪は冷たくスコールに寄り添っていたのだ。
クラウドの顔についた雪を払おうとして、手指が動かなくなっていることに気付いた。
不器用に軍服の袖でぬぐうと、青い肌が現れた。
雪明りに照らされて、死びとの肌はますます蝋じみて見えた。
まつ毛の先についたままの白いものを払おうとしても意のままに動かない指に苛立って、
スコールはそっとまぶたにくちびるを寄せた。
冷たい。
雪を舐めるように、肌をむさぼるように、スコールはクラウドの顔に口づけ続けた。
おとぎ話のように、生き返らないことなど分かっていた。
只、全てが雪に埋もれてしまう前に、冬が戦いの痕跡をぬぐい去り、
何ごともなかったかのように春が来る前に、クラウドを愛し尽くしたかった。


スコールは咆哮した。
いくら叫んでも声は雪と闇に吸い取られていった。
誰も耳を傾けない。
誰も応えてはくれない。


スコールは小刀で、クラウドの髪を一房切り取った。
太陽の色だ。
常に頭上高く生命を見守り、慈しむ神の色だ。


それを懐深く仕舞うと、スコールは一歩を踏み出した。
自分は、雪のなかを生命尽きるまでひとりで生き続けなければならないのだ。



101009