夏の帰結





今年の夏は早かった。
ティーダは窓枠に座り、暮れ行く太陽を見つめた。


夏も終わりに近づいているのに、日は長く、その濃厚な色の残滓は未だ空に沈殿している。
空気も沈んでいる感じがして、ティーダは息苦しさを感じた。
風が弱々しくカーテンを揺らしている。


夏のはじめに、頽廃から救った女は従順にティーダとの生活に溶け込んでいった。


脚を開けと言えば脚を開き、笑って欲しいときは微笑んだ。
ティーダが望むことを、言う前から分かってくれた。

それは自分への信頼や愛に他ならない。


ティナを呼ぼうと、ティーダは振り返った。

ティナはキャミソール姿で膝を抱え、足首のあたりをしきりにいじっている。
肩が冷えると思い、ティーダは彼女に近づき、その足首に、華奢なアンクレットが巻かれていることに気付いた。


それは、アクセサリーとして派手に主張するのではなく、肌やみどりいろに透けて見える血管に吸いついているようだった。
まるでティナの身体の一部のようだった。
生まれついたときからある器官として、ティナの生命を維持するため、酸素を取り込み、血液を循環させる内臓と同じように、動いてきたものに見えた。


ティーダは苛立った。
クラウドが贈ったものであることは明白だった。
彼がティナに注いだ愛、彼女に対する理解、包容が全てゴールドのアンクレットに詰まっていた。


何故今まで気付かなかったのか。


ティーダは、がむしゃらに自分なりの方法でティナを大切に思ってきたつもりだったけれど、結局のところ、彼女の性器や乳房にしか興味がなかったのか、と
自分の無意識に失望した。


脳裏で、血だまりからクラウドが蘇った。


その幻想を断ち切るために、ティーダはアンクレットに力を込めた。
ゴールドの鎖は簡単に千切れ、蝶の燐粉のように光を受けてきらきらと舞うと、静かにシーツの上に散った。


ティナは、怒りや嫉妬や憎しみや愛情を抑えようとした結果、あふれ出してしまい、肩で息をして
絶望が渦巻く瞳を隠そうともしないティーダを、怒るわけでもなく、じっと見つめた。


「でも、俺だって、ティナのこと、ちゃんと好きなんだ。」


ティーダは身体の奥からせまる震えに耐えられなかった。
めちゃくちゃな感情のうねりがせまってくる自分の前で、ティナは静かだった。
彼女の中の扉をぴたりと閉ざし、目の前の彼に対して、無関心だった。
何の揺らぎも見せない瞳には、狼狽した自分が単に映っていた。


「誰も、クラウドにはなれないのにね。」


ティナは悲しげに微笑むと、小さな鎖の破片を、繊細な指先で拾い上げた。
掌にゴールドの破片を集めると、かつて自分の傍らにいたクラウドをいつも抱きしめていたように、きゅっと握った。





090611
素材:FOG