神羅OLのある1日
その日出社すると、我が神羅カンパニーのビルは封鎖されていた。
「立ち入り禁止 KEEPOUT 立ち入り禁止 KEEPOUT 立ち入り禁止 KEEPOUT」
黄色いビニールの規制線に書かれた文字を読み、私はため息をついた。
自分の勤める会社に入れないなんて、馬鹿げた話があるのか。
「今日は仕事しなくていいのかぁ」
のんびりとした会話が、周囲にいる神羅社員から聞こえてくる。
ミッドガルや、あるいは他の地域の恵まれた家庭に育った社員なのだと推測した。
普通、裕福な家庭の育ちでなければ、神羅カンパニーに入社することすら叶わないのだ。
富裕層が神羅に対して悪感情を持つことは稀だし、これからも安定した、腐敗しかかった空気を保つことを
神羅は望んでいる。
私はジュノンの地主の家に生まれ育ち、もちろんコネで神羅に入社した。
何にも気付いていないフリをして自分の身を守ることが、私の第一の仕事だ。
そして、タークスクラスのダンナさまを見つけることが目標である。
あーでも!!
今日は唯一タークスの面々が本社ビルにいると分かりきっている日であり(タークスは何かと出張が多い)、
そして私は友達に合コンのセッティングを頼まれている。
頼みに行った女が小汚くて不細工なのではお話にならないので、いつもより1時間早く起きて身支度も念入りにしてきた。
今日着ている白と黒のツートンカラーのワンピースは3万ギル。
髪は気合を入れまくって巻き、目はいつもの2倍の大きさだ。
「ちくしょー」
密かに毒づくと、ふいに裏手にも出入り口があることを思い出した。
あそこからなら、誰にも気付かれずに社内に入れるかも知れない。
私は規制線をまたぎ、裏に回った。
ドアを開けると、予想に反して私を襲ったのは静寂だった。
「何これ・・・」
ソルジャーや役員クラスの社員がゴロゴロしている予想図は、そこにはなかった。
厳かで整った社内にあるのは不気味な静けさだ。
そして、床には血だまりが出来ていた。
その上を、何かが這いずりまわった後。
擦れてこびりつき、変色している血液が不吉な想像をさせる。
「まったく宝条は能無しねぇ」
女の声がしたので、慌てて観葉樹の陰にしゃがみ込んだ。
兵器部門統括、スカーレットだ。
雑誌に50万ギルもすると書いてあったツイードのスーツを着ている。
黒いピンヒールの靴は、確か10万ギルくらい。
美しく着飾り、流行りの化粧をしているが、その若作りが不気味だ。
「何をしている?」
スカーレットの耳障りな甲高い声ではなく、低くて深みのある声がした。
あー、私の神羅OLとしてのキャリアは終わりだわ。
さようなら、幾多のブランドバッグたち。
さようなら、私の華金。
だってこの声は、副社長のルーファウス神羅だ。
「ふっ副社長」
私は慌てて立ち上がり、少しでも目を大きく見せようとまぶたをかっ開いた。
女は、自分を可愛く見せることに関してはいつだって頭が回る。
「あの、合コンを・・・」
この期に及んで私は何を言っているのか。
でも私が会社に立ち入ったのは、こんなに可愛い恰好をしてきたのに合コンの申し入れすら出来ないことが
分かってむしゃくしゃしたからだ。
ルーファウス神羅はくすっと笑った。
冷徹な美貌をもつこの人が笑うのかと、しばし呆然とする。
「いいだろう。合コンに行ってやるから、会社からは出ろ」
私は頷いて、大人しくまた裏口に回った。
神羅の副社長が合コンに来るなんて、みんな驚くだろうな。
私も鼻高々だわ。
目を2倍にしてきて、本当に良かった。
だいたい、ルーファウス神羅の美しさを拝めただけで儲けもんである。
***
神羅ビルを血染めにしたその事件の真実を、未だに私は知らない。
しかし、それから、私たちの日常は少しずつ狂い始め、今、頭上にはメテオとかいう大きな星が不気味な存在感を発して、人々は恐れおののいている。
091119