夢の終わり〜忘れえぬ人



「終わるってどういうことなんだ?」

少し掠れたクラウドの声は、地鳴りのような轟きに紛れてあまり聞き取れなかった。

「終わる?」

ティナが聞き返すと、クラウドは自分の指をティナの指に絡めた。
片方の手で、ティナは突風に巻き上げられる髪を押さえる。

暑い。
太陽が溶けたような色の空を見上げて、ティナは考え込む。
汗でぬめる掌はクラウドにぎゅっと握られたままだ。
不安をごまかすためなのか、いつにもましてクラウドの力は強い。

クラウドの指が手の甲に食い込む。

すべてが終わってしまったら、こうしてクラウドと手を重ねることも叶わない。
共に時の移ろいを感じることも、戦うことも。

終わってしまったら、そこで時間も止まるのだ。

「でも」
「私にとってクラウドは」
「忘れられない人よ」
「絶対」

轟音に負けないように、ティナは声を張った。
クラウドに間違いなく聞こえるように、一字一句言葉を切る。

「せめて自分たちの手で終わらせないか」

弱々しい言葉は、しかしはっきりとティナの耳に届いた。

「誰かに終わらせられたら、」

クラウドは言葉を切った。
ティナのことも忘れてしまいそうで、と言うのが恐ろしかった。
自分の内にあるティナの残像すら消えてしまいそうだからだ。
その残像すら思い浮かべて愛でることが許されないなんて。

終わるとは、そういうことなのか

「大丈夫」

ティナはクラウドの髪を撫で、その背中を抱きしめた。
クラウドは、ティナの鼓動を聞きながらうっとりと目を閉じた。
この瞬間、ティナは生きている。
その掌にクラウドを感じて、少し泣いている。

「私は絶対、クラウドを忘れないから」

クラウドの思いをくみ取って、ティナは穏やかな声音で言った。
むずがる我が子をあやすような、母親のようだった。

「ありがとう」

その言葉をティナに言うのは初めてだということに、クラウドは気付いた。





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