なる作法









そのヴァンパイアは、気が遠くなるほどの時間をひとりで過ごしていた。
自分がどれだけの歳月を生きてきたのか、いつヴァンパイアになったのか、その記憶はもはや時間という靄に覆われて思い出せなくなっていた。
気付いた時には永遠のときをひとりで生きる覚悟を決め、その若さと美しさを持て余していた。

父がつけたのか母がつけたのか、セフィロス、と幼い頃から呼ばれていたのは覚えている。












スコールは長い脚を組み、ワイングラスを片手に笑いさざめく人々を、ぼんやりと見つめていた。
自分の17回目の誕生日を祝って開かれた仮面舞踏会は、例年よりも退屈に思えた。

友人を自称する取り巻きたちは顔もろとも醜い性質さえ仮面の奥にひた隠し、スコールをダンスに誘うが、ずっと無視していた。
全ては虚無的であり、下らないものだった。

人々のざわめきが一瞬途切れ、スコールは顔を上げた。

銀髪の長身の男が、ゆっくりと広間を横切っていた。
銀髪は温かなシャンデリアの光に反射して、冷たく光輝いている。
長身を誇るように背筋を伸ばし、誰よりも豪奢な衣装を着て、仮面で顔を隠していた。

(あんな客・・・今までいたか?)

貴族簿に載っている貴族たちの顔と名前をそれとなく思い浮かべてみるが、どれとも符合しない。
自分よりも身分が高く資産家と判断したのか、貴族がその男に群がって行った。


スコールはため息をつくと、席を立った。
熱気で気持ちが悪かった。


隣接する部屋に移動し、窓を開けると薄暗いなかで冷気を楽しんだ。
襟元をゆるめて、ほっと息をつく。



「どうしても、パーティーは人が多くていけませんね」



落ち着いた深みのある声にふりむくと、銀髪の男が傍らに立っていた。
気配がしなかったことを訝りながら、スコールは相槌をうつ。
仮面を外した男の瞳が、スコールを捉えている。
美しく輝く青みがかった緑色の瞳は、生物が絶えた深海を思わせる。
妖しい光を放つそれを見つめていたことに気付くと、慌てて目を伏せた。
優雅な、それでいて原始的な荒々しさをもつ不思議な色合いだった。


「人間には飽き飽きしないか?」


先ほどまでの紳士的な振る舞いとは裏腹の、野蛮な声音だった。
男はスコールの腕を掴むと、壁に押し付けた。


男の手は死者のように冷たかった。
妖しい瞳が迫り、スコールを誘惑している。


今まで生き血をすすった人間とは違い、そのスコールという青年が何の抵抗もしなければ怯えた仕草も見せないことに、セフィロスは少し驚いていた。
感情が見えないガラス玉のような瞳に映る、自分自身と目が合った。


「私が怖くはないのか?」
「怖くは、ない。・・・お前は誰だ?」


壁際に追い込んだ青年は、淡々と言った。
生まれつき常に周りから興味を示され、全てに恵まれてきた代償として、自分からは何も求められない男の声だった。
生すらも、スコールが求めるものではないのだろう。


すばらしい、とセフィロスの胸は高鳴り、背筋は震え、神経は宝物を見つけたときのように昂ぶっていた。
スコールの鬱屈と頽廃こそがヴァンパイアの気品と精神にふさわしいものだった。


やっと見つけた、永遠のパートナーを。


セフィロスは指先でスコールのかたちをなぞった。
華奢な顎のライン、滑らかな首筋と鎖骨、美しく物憂げな造詣。


「私はセフィロス。ヴァンパイアだ。」


スコールが目を見張るのが分かった。
白い肌に鋭く進化したヴァンパイア特有の歯を立てると、ぷつり、と裂ける音がした。
口に溢れ出すのは脈々と歴史を紡いできた高貴なる青い血だった。
伝統にかまけ、横暴をつくし、民を支配することを赦された血脈。


セフィロスは、その稀少な血液を味わいつくすと、手を離した。


スコールは、床に投げ出されると、浅い息を繰り返した。
肌は青ざめ死者の冷たさをもち、表情は蝋人形めいていた。


「苦しいだろう?今、お前は生と死の境目にいる。」


スコールの眼差しの冷たさは変わらなかった。
苦しみを微塵も感じさせない声で、
「じゃあ・・・殺してくれ」
とだけ言った。


「お前を殺すのは惜しい。」


セフィロスはくつくつと笑うと、自分の手首に歯を立てた。
傷口からこぼれる吸血鬼の血液を、スコールの口許にたらす。

「猛烈に渇いているだろう?私の血を吸えば、お前の美しさは永遠のものになる。」

スコールは夢中で舌を伸ばし、赤い雫を体内に取り込んだ。
セフィロスの手首に食らいつくと、傷口を舐め、しゃぶった。


「私の孤独を癒してくれ。」


セフィロスが耳元で囁くと、スコールはぐったりと目を閉じた。
美しい貴族の青年が自分のものになった歓喜にうちふるえ、スコールを抱きかかえた。


「人間だったことなど、忘れるがいい。」


セフィロスは窓から飛び降りると、闇に溶けていった。

鎌のような三日月が、禍々しい光を放つ夜だった。






090425









「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」パロディ。
やるつもりなかったけどやりましたw

レスタト=セフィロス
ルイ=スコール なイメージで。

楽しかったです。
シリーズ化したいなぁ(笑)


クラウド=スコールより前にセフィロスにヴァンパイアにされたヴァンパイア
ティナ=クラウドと心を通わせる人間の少女

とかねw

ディシディア勢全員ヴァンパイアにして、色々もしょもしょやりたいなー

ポーの一族読みたくなった!!